贈与税回避事件の解説 その③ ~租税法律主義~

税金は税法という法律に基づいて支払いを義務付けられています。

まず、税金を話す前に前提となるお話があります。
個人の財産権です。国民ひとりひとりの財産は、憲法29条において保障されています。
他の人のサイフに手を入れて、お金を盗むと当然罰せられます。

ところが、表現が大げさかもしれませんが、税金というのは一方的に国が個人のサイフに手を入れる行為と言えるのです。
つまり、税金は法律に合致していれば、国にどんなことがあってもお金を取られてしまう強行法となっています。

税金は国の運営には必要なもので、所得の高い人から、低い人へ救済(所得の再配分)や公共の福祉のために利用され、なくてはならないものです。ただ、先にもお話したように、財産権の侵害となりうる可能性もあることから、

①税金を取るには法律の根拠が必要なこと。
②税金を取る法律は明確でなければならない(でも、明確だったら本来、税理士さんはいらないのかもしれませんね)。
③税金を取る手続きは適正に行われること。
④強行法規で、法律に合致していれば、否応なく税金が取られてしまうこと。

が特徴として挙げられます。これを租税法律主義といいます。
逆を言いますと、法律に合致していなければいかなる理由をもってしても税金を取ることはできません。
法律の根拠がないのに、人のサイフに手を入れると財産権の侵害になるからです。

よく刑法との類似性(罪刑法定主義)がいわれています。
法律の根拠がないのに逮捕されたら困りますね。

今回の裁判では、当初の法律では、国外にいる方が、国外にある財産を贈与しても日本の税金を取る法律がなかったのです。税金を払いたくなくて海外に行くというのは法律は予定していなかったのです。
しかし、お話した通り、法律がないのに税金を取るわけにもいかず、これで税金がかからなくなるのはおかしいと理由で税金を取るということはできないのです。

よって、今回の裁判は、実際に香港に住所を有していた事実があれば、租税法律主義の考えから課税はできないということになります。

例えば、札幌に住んでいる方が、税金を札幌市に払うのが嫌だから名古屋市(減税で有名になった市)に引っ越するとします。その理由を聞かれて、札幌市より名古屋市の方が税金が安いから、税金を払うのが嫌で引っ越しましたと言ったらどうでしょうか。

税金を逃れるために引っ越しするのはけしからん。札幌市に税金を払え! とはいえませんね。
そこに今回の裁判の難しさがあります。

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